「――名乗れよ。お前に似合う名前は、
それだけなんだから」
彼は、いつか悲痛な想いを口にした。
私はきっと懐かしくて、遠くて、守りたい場所が頭に過ぎっていたのだと思う。
「センリ、ありがとう」
「は? お前はまた何だ、いきなり」
今はまだ愛しさよりも痛みや哀しみの方が大きいけれど。
「ううん、良いんだ。ただ……私は自分の名前、大切にするよ」
「そんなの当たり前だろ。お前の名前には願いが篭められてるんだから」
センリはいつも力強い言葉をさらりと言い放ってしまう。
……あの時、あの国に居た、遠い日の自分を忘れる事は出来ないけれど。
心から信じられる人達の傍でなら、例えどんなに離れても、大切なものを想い、守る事が出来るから。
「――兄上、センリ。ここに居たんですね」
「あ、ヴァス」
三年間、苦楽を共にしてきた私の家族。
私は神殿にいる事であの国を守っていこうと思う。
痛みがない訳ではないが、信じている。
いつか国と神殿の距離が近付き、人々が心から安心して暮らせる日が来る事を。
そのためにも私はここで大切な人を支えていく。
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